【試合分析】百年構想リーグ第5節 ヴィッセル神戸対広島 劇的逆転勝利の舞台裏:スキッベ監督の「3バック」という賭けとエース大迫勇也の存在感

明治安田J1百年構想リーグ地域リーグラウンドWESTグループ第5節、ノエビアスタジアム神戸で行われたサンフレッチェ広島との一戦は、ヴィッセル神戸にとって単なる1勝以上の意味を持つゲームとなりました。3試合ぶりの白星を手にしたこの試合、指揮官ミヒャエル・スキッベが仕掛けた「実験的采配」と、土壇場で試合をひっくり返した「個の力」、そして勝利を呼び込んだ「守備の執念」を徹底分析します。

 

試合結果

◯ 2-1

得点者:扇原 貴宏(84’)、大迫 勇也(90’+4)

広島:木下 康介(49’)

 

1. スキッベ監督の決断:なぜ「3バック」だったのか

この試合、スタジアムに衝撃が走ったのはメンバー発表の瞬間でした。ヴィッセル神戸は公式戦で初めてとなる「3-4-2-1」のシステムを採用**しました。GKに前川黛也、最終ラインは右から山川哲史、マテウス・トゥーレル、カエターノ。中盤は扇原貴宏と井手口陽介のダブルボランチ、ウイングバックに広瀬陸斗と永戸勝也を配し、2列目に郷家友太と日髙光揮、そしてワントップに小松蓮という布陣です。
このシステム変更の最大の狙いは、広島が得意とする「5レーン」を使った攻撃への対策、いわゆる**「ミラーゲーム」への持ち込みにありました。普段の4-1-2-3ではアンカー脇のスペースを突かれやすいという弱点がありますが、広島の強力なウイングバックとハーフスペースを突く2列目に対抗するため、守備の焦点を明確にするための決断だったと言えます。負傷者が完全には戻りきっていない中で「今いるメンバーでベストの結果を得る」ための、スキッベ監督による「大きなチャレンジ」でした。

2. 苦悶の前半と「ターニングポイント」となった幻のゴール

試合序盤、神戸は不慣れなシステムもあり、広島の攻勢にさらされます。特に若手の日髙光揮は、積極的な姿勢が裏目に出てしまい、開始直後に相手主将の佐々木翔と空中で接触。さらにGK大内一生へのスライディングでイエローカードを受けるなど、球際の激しさが「荒さ」と紙一重の状況に陥りました。
膠着状態が続いた後半49分、痛恨の先制点を許します。中盤の配球役である扇原貴宏がボールを拾った際、背後から忍び寄った広島の中村草太にボールを奪われ、そこからのショートカウンターで鈴木章斗のシュートを許します。一度は前川が弾いたものの、こぼれ球を木下康介に押し込まれ、0-1とリードを許す展開となりました。
さらに直後、再び木下にゴールネットを揺らされ、絶体絶命の2点目を献上したかに見えました。しかし、ここでVARによるオフサイド判定が下ります。この「ゴールなし」の判定こそが、神戸にとって大きなターニングポイントとなりました。

3. 試合を変えた交代策と「エース」の帰還

1点を追う展開の中、スキッベ監督は温存していた「エース」を投入します。後半開始からピッチに立った大迫勇也は、投入直後から別格の存在感を見せました。
大迫は屈強な広島のディフェンス陣を背負いながら確実にボールを収め、タメを作ることで、停滞していた神戸の攻撃にリズムをもたらしました。また、左サイドハーフに入ったジエゴも、本職ではないポジションながら「前に出る力」と「ゴールへの意欲」を見せ、攻撃の活性化に貢献します。

4. 扇原貴宏の「強靭なメンタル」とPKによる同点劇

迎えた80分、神戸に絶好のチャンスが訪れます。井手口からの縦パスを受けた大迫が展開し、最後はゴール前に走り込んだジエゴが相手GK大内と接触。これがVAR検証の末にPKの判定となります。
キッカーを務めたのは、先制点を献上するミスを犯してしまった扇原貴宏でした。1点を追う重圧、そして自らのミスを取り返さなければならないという極限の状況下で、扇原は「最初から決めていた」というゴール左上への鮮烈なキックを突き刺しました。失敗を恐れず、あえて難しいコースを狙い切ったこのPKは、扇原の持つ技術の高さと、何よりも「強靭なメンタル」を象徴するシーンとなりました。

5. 劇的な逆転!大迫勇也が示した「決定力」

1-1の同点に追いつき、勢いに乗る神戸はアディショナルタイムにドラマを作ります。カエターノからのロングボールを大迫が競り合い、その落としを永戸が頭でつなぎます
。最後はジェアン・パトリッキのクロスから広瀬のヘディングがポストを叩いた跳ね返りを、大迫勇也自らが押し込みました。
組み立てから決定仕事まで、そのすべてに関わった大迫のゴールにより、神戸は90分+4分に逆転に成功。ノエビアスタジアムのボルテージは最高潮に達し、そのまま2-1でタイムアップを迎えました。3試合ぶりの勝利は、まさにエースの力で手繰り寄せたものでした。

6. この試合の「一番星」:永戸勝也が果たした影の功労

逆転ゴールのヒーローは大迫ですが、この試合の「一番星(MVP)」として特筆すべきは永戸勝也の貢献です。
永戸は攻撃面で2得点のすべてに絡んだだけでなく、守備面で「チームを救う」決定的なプレーを見せました。71分、広島の加藤陸次樹が放った決定的なヘディングシュートを、永戸はゴールラインぎりぎりでクリア。もしこれが決まって0-2になっていれば、神戸の逆転勝利はなかったでしょう。左サイドのスペシャリストとして、攻守にわたるハイパフォーマンスは、まさに勝利の立役者と呼ぶにふさわしいものでした。

7. まとめと次戦への展望

広島とのミラーゲームを制した今回の勝利には、多くの収穫がありました。
3バックへの挑戦: 不慣れなシステムながら、トゥーレルやカエターノを中心に守備の強度は保たれていました。
新戦力の発見: 安定したビルドアップを見せたカエターノや、中央での可能性を示したジエゴなど、戦術の幅が広がる予感を感じさせました。
若手の成長と課題: 日髙光揮は「強さと荒さ」の違いを学ぶ貴重な経験を積み、小松蓮も広島の守備を背負ってボールを収めるなど、確かな成長を見せました。

次戦はホーム・ノエスタに清水エスパルスを迎えます。前回対戦の雪辱を果たすとともに、今回の勝利で得た勢いを加速させ、連勝街道を突き進むことができるか。試行錯誤を続けながらも「勝負強さ」を取り戻したヴィッセル神戸の、さらなる飛躍に期待がかかります。