【試合分析】ヴィッセル神戸 vs C大阪:ACLEの激闘から「再出発」。新たなビルドアップの挑戦と酒井高徳アンカー起用|J1百年構想リーグ第13節

明治安田J1百年構想リーグ第13節、ヴィッセル神戸はホームのノエビアスタジアム神戸にてセレッソ大阪と激突した。この一戦は、ヴィッセルにとってAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)のファイナルズ準決勝での敗北から中7日で迎えた、再びアジアの頂点を目指すための「再出発」となる位置づけの試合です。最終的に試合は0-0で推移し、PK戦の末に0-4で敗退するという結果になり、勝利という形で門出を飾ることはできなかったもののこの日の試合内容にはヴィッセル神戸の強い覚悟が表れており、未来に向けた非常にポジティブな評価ができるものであったと思います。ACLE準決勝敗退後、ヴィッセルの三木谷浩史会長は自身のSNS上で「Vamos. Never give up. We started from here.」というメッセージを発信しています。
ヴィッセル神戸の始動日は1995年1月17日であり、同日に発生した阪神・淡路大震災によって灰燼に帰した神戸の街で産声を上げ、街の復興とともに成長を続けてきた歴史があります。三木谷会長のこの短い文章は、そうしたクラブのルーツを再確認し、どんな逆境であってもファイティングポーズを取り続けるという、トップにふさわしい決意表明であったと思います。

試合結果

△ 0-0
(PK 2-4でC大阪勝利)

 

1.ロングボール頼みからの脱却:ビルドアップの進化を目指して

この首脳陣の熱い気持ちをピッチ上で具現化するのは、監督やコーチ、そして選手たちの役割であす。アル・サッドやアル・アハリといったアジアを代表する強豪クラブとの連戦を経て、ヴィッセルが変えるべきポイントは明確に浮き彫りになっていました。その最大の課題が「ビルドアップ」です。 アル・アハリとの準決勝に敗れた後、井手口陽介は昨季以前から続く課題であることを前置きした上で、「試合の流れが悪くなった時にロングボールだけになってしまう」と改善点を明言しました。多くのチームはこうした課題を「未来への改善点」とし、シーズン終了後に着手する傾向にあるが、ヴィッセルの対応は素早かったと言えます。この日のC大阪戦後、山川哲史はチーム内で「速いテンポでのパス回し」という認識を共有した上でプレーに挑戦していたことを明かしています。山川は「Jリーグであればロングボールで状況を打開することはできるが、ACLEではそれは通じなかった」と語り、自分たちでボールを運んでいく形へ強い意欲を見せていました。 目の前の勝敗も重視しながら、その先にある成長を見据えて戦うことは決して簡単ではありません。しかし、敢えてそこに挑む選手たちの意識の高さは際立っており、ミヒャエル・スキッベ監督も「日頃からモチベーションが高い選手たちなので、しっかり選手たち自身が切り替えてくれていました」と称賛しています。ヴィッセルの選手たちは、ACLE26/27の出場権を獲得するためにも、現在1位につけている百年構想リーグの地域リーグラウンドを首位で通過し、優勝するという思いをさらに強くしているのです。

2. C大阪の大胆な「奇策」と、立ちはだかった堅守とオフサイドトラップ

一方で、対戦相手のC大阪も独自の狙いを持ってこの試合に臨んでいました。C大阪は2026年を18カ月のシーズンと捉え、トップチームの強化と育成の両立を長期的な目標として掲げているが、この日は大胆な戦術変更を見せました。前節から先発メンバー11人を全て入れ替えた上に、これまでの4-2-3-1ではなく、今季初となる3バックシステムを採用したのです。C大阪のアーサー・パパス監督は「コンディションなど諸々の関係」としつつも、「恐らくは相手も予想していなかったシステムだったと思うので、そこで優位性を作れるとも思いました」と、ヴィッセルを混乱させる狙いがあったことを明かしています。 このC大阪の戦い方は極めて現実的であったと言えます。司令塔の香川真司が「守備のターンが多くなることは想定していた」と語った通り、守備に重きを置き、前線に強さと高さを持つ櫻川ソロモンを配置してカウンターを狙う構えを見せました。この試合でヴィッセルを大きく苦しめたのは、C大阪の「GK」と「オフサイド」の2点でしょう。 まずGKのキム・ジンヒョンは、開幕戦以来の出場ながら見事なセーブを連発しました。前半2分、広瀬陸斗からのクロスを大迫勇也がペナルティエリア内で巧みに落とし、そこに走り込んだ満田誠が強烈なシュートを放ったが、キムはGKが反応しにくい左足元へのボールを見事にセーブします。満田が「あれを自分が決めていれば、勝っていた試合だった」と悔やむほどの決定機を防ぎ、さらに22分と50分にも武藤嘉紀のシュートをスーパーセーブで凌ぐ大活躍を見せました。 もう1つの障壁がオフサイドです。3バックの中央を務めた吉野恭平がパパス監督からの「ラインコントロールをしっかりやれ」という指示を完遂し、両脇の経験の浅い選手たちを巧みに動かしました。その結果、ヴィッセルはこの試合で実に8回ものオフサイドを記録することとなったのです。大迫のポストプレーから武藤や満田、佐々木大樹らが裏に抜け出すというヴィッセルの得意の攻撃リズムは、このオフサイドトラップによって意図的に寸断され、攻撃の迫力を削がれてしまったのです。

3.浮き彫りになった「決めきる力」の不足と佐々木大樹が越えるべき壁

GKの好守や堅い守備に苦戦したとはいえ、ヴィッセルにも幾度となく決定機は訪れていました。C大阪の吉野が「前半は正直、押されたし、0-3にされてもおかしくなかった」と振り返るように、ヴィッセルにとって最大の反省点は「決めきる力」が足りなかったことです。 最大のチャンスは前半40分に訪れました。中盤に降りた大迫から右の武藤へとパスが渡り、武藤がドリブルで持ち上がって外を追い越した広瀬へ絶妙なパスを供給。深くえぐった広瀬のマイナスの折り返しに満田が反応し、こぼれたボールを右の佐々木がダイレクトでシュートしました。前方にいたのはGKと中村拓海だけであり、比較的余裕を持って狙える場面であったが、佐々木のシュートは惜しくも枠を外れてしまいました。 ACLE準決勝でも2度の決定機を逃していた佐々木には、「決めなければ」という気負いがあったのかもしれません。かつてプロ野球で三冠王を3度獲得した落合博満氏が、スランプ脱出の秘訣として「ヒットを打とうと思ってはいけない。正しいスイングをすることだけに集中する」と語ったように、今の佐々木に必要なのは、結果を焦るのではなく「狙った位置に正確に蹴る」というプロセスに集中することでしょう。 佐々木は右ウイングとして、自陣深くでの献身的なプレスバックやスペースへの走り込みなど、「ヴィッセルのレギュラー」にふさわしい質の高いプレーを見せていますが、エースナンバー「13番」を背負う以上、結果を残さなければポジションを失うという厳しいプレッシャーに打ち勝たなければならないのです。佐々木にとって、今は選手としての大きな勝負の時と言えるでしょう。

4. 酒井高徳のアンカー起用が証明した圧倒的な「サッカーIQ」

この試合における戦術的な最大の収穫は、扇原貴宏の欠場によりアンカーに抜擢された酒井高徳の出色したパフォーマンスです。スキッベ監督が「中盤で試合をコントロールしてくれた」と手放しで称賛したように、酒井は本職のサイドバックだけでなく、ボランチとしても一流であることをピッチ上で証明しました。 酒井のプレーの根底にあるのは、極めて高い「サッカーIQ」であると言えます。ボール保持時には自ら最終ラインに降りて「疑似3バック」を形成しながらも、両サイドを高い位置に押し上げ、チーム全体の重心を下げすぎない絶妙なバランスを保ちます。その卓越したセンスが最も発揮されたのが、前半6分のプレーす。自陣から前進しようとするC大阪の喜田陽の動きを見た酒井は、パスが出る前からボールの行方(櫻川へのパス)を察知し、瞬時にスピードを上げてスライディングでカット。さらにこぼれ球に対しても再度スライディングを見せ、櫻川に当てて左の永戸へ意図的にボールを流すという離れ業をやってのけたです。その後、大迫を経由してボールを再確保した酒井は、前線へ直行する武藤ではなく、ハーフスペースの広瀬を引き出すパスを選択し、チームの攻撃に厚みをもたらします。この20秒弱のプレーに、彼の圧倒的な観察力、判断力、実行力が凝縮されています。 酒井は扇原や井手口、鍬先祐弥らのプレーの特徴を深く観察し、それを公式戦という強度の高い舞台で完璧に再現してみせました。酒井がこのポジションを高次元でこなせることは、指揮官にとって最大の朗報であり、同時に他のミッドフィルダー陣の闘争心に火をつける大きな刺激となるはずです。

5.今後の課題とG大阪戦への展望

多くの収穫があった一方で、ヴィッセルが今後解決すべき課題も浮き彫りになったと言えます。新たなパス回しへの挑戦に伴い、まだ細かなパスのズレが見られ、攻撃のスピードが上がりきらない場面が散見されました。前半はそのズレを素早い切り替えの強度でカバーしていたが、後半20分(60分)を過ぎて体力が落ちてくると強度が低下し、C大阪に反撃の機会を与えてしまったのです。ACLE準決勝でも直面した「強度の90分間維持」という課題への対処が急務です。 その解決策の1つとして期待されるのが、GK権田修一を加えたビルドアップの確立です。この試合で先発した権田は正確なキックを見せ、低い位置で自ら相手を引き付けることで最終ラインに時間とスペースを生み出していました。この「11人目のフィールドプレーヤー」を加えた形が成熟すれば、体力的に厳しい時間帯でも優位性を保ちながら前進することが可能になるでしょう。
次節は、新監督を迎えて暫定ながら西地区3位につける好調のG大阪との対戦となります。ヴィッセルよりも消化試合が2試合多いものの勝点差は4であり、逆転を狙って激しく向かってくることは間違いないでしょう。さらに、この試合では契約の関係で満田が出場できないため、途中出場でバランスを整え、高いボールスキルを持つ郷家友太の起用と活躍に大きな期待がかかります。 ヴィッセル神戸はACLEの激闘を通じて確実に目線を上げ、アジアのサッカー界にその名を深く刻み込みました。その強さを維持し、アジアの常連となるためにも、この厳しい連戦を乗り越え、次戦のG大阪戦でヴィッセル本来の強さを存分に発揮してくれることを期待したいと思います。

※この記事は、DAZN観戦と・ヴィッセル神戸「覆面記者の目」の解説をもとに作成しています。