【試合分析】ヴィッセル神戸が清水を圧倒した戦術的理由。飯野七聖と新たな攻撃の形|J1百年構想リーグ第11節

2026年4月1日に行われた明治安田J1百年構想リーグ第11節、ノエビアスタジアム神戸でのヴィッセル神戸対清水エスパルスの一戦は、2-0でホームの神戸が完勝を収めた。清水を率いる吉田孝行監督は昨季までの神戸のコーチ陣であり、神戸の選手の特徴を知り尽くした相手であった。しかし、試合後に敵将が「今季ワーストのゲームだった」「やるべきことができていなかった」と振り返るほど、神戸は清水に何もさせなかったのである。進化を続ける神戸の選手たちは前監督の目の前で新たな戦い方の練度を示すことに成功した。AFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)ファイナルズを控える重要な4月において、この勝利は非常に大きな意味を持つ。本記事では、この試合で見られた神戸の戦術的な勝因と、選手たちの優れた連動性について詳細に分析する。

 

試合結果

◯ 2-0

得点者:永戸 勝也(28’)、扇原 貴宏(61’)

 

1.オ・セフンを無効化した「入り口と出口」の同時封鎖

この試合における最大の勝因は、清水の絶対的なターゲットである197cmの長身FW、オ・セフンを完全に機能不全に追い込んだ守備戦術にある。清水はボールの動かし方に関わらず、最終的にはゴール前でオ・セフンにボールを集めるスタイルをとっている。これに対し、神戸の守備陣は単純に「ボールの出どころ(入り口)」か「着弾点(出口)」のどちらか一方を狙うのではなく、両方を同時に封じ込む高度な守備を実践した。ボール保持時にはピッチを広く使ってパスを回し、清水の布陣を押し込みつつ広げることで、相手を自陣のゴールから遠ざけることに成功した。スキッベ監督が「相手をできるだけ自分たちのゴールから離すことができた」と語ったように、ボールが出てこないオ・セフンは後方まで下がらざるを得ず、前線にボールを送っても神戸の守備陣が通常の守備で容易に弾き返せる状況を作り出していた。この入り口と出口を同時に抑え込んだ守備こそが、試合の主導権を握る決定的な要因となった。

2.中盤を支配した井手口陽介と郷家友太の戦術眼と献身性

この堅手な守備とパスワークを根底で支えたのが、インサイドハーフとして出場した井手口陽介と郷家友太である。 井手口は、豊富な運動量のみならず、卓越したポジショニングセンスでパスワークの潤滑油となった。サイドバックとウイングの横に立ってトライアングルを形成し、相手をトライアングル内に閉じ込める一方で、自身を囮にして別のパスコースを確保する動きを披露。さらに、あえて相手を引き連れてトライアングルの補助に入り、味方が球際勝負に勝った際の「逃げ先」となるなど、味方を動きやすくするための極めて頭脳的なプレーを随所に見せた。 一方の郷家は、両チームトップとなる12.88kmの走行距離を記録しながらも、スプリント回数は5回に留まるという、試合を通じて絶え間なく走り続ける「スタミナお化け」ぶりを発揮した。ボール保持時には味方に必要なスペースを見つけ出し、非保持時には相手の急所となるスペースを消しながら最終ラインにプレッシャーをかけ続けた。後半からは大迫勇也の負担を軽減するため、スキッベ監督の期待に応えてファーストディフェンダーの役割も見事にこなすなど、チームに欠かせないコネクター役として機能し続けた。

3.左サイドの新コンビと計算し尽くされた先制点

左サイドでは、カエターノ(左CB)とジエゴ(左SB)の新コンビが抜群の安定感を見せ、チームに新たな攻撃の形をもたらした。カエターノは相手のプレスを受けながらも前方向へのパスコースが空くのを待ち、確実にボールを繋ぐ「相手を裏返すプレー」でチームに優位性をもたらした。前所属の柏でも経験のあるサイドバックとして起用されたジエゴは、持ち前の高いボールスキルで密集地帯でも巧みにボールをコントロールし、カエターノとの間で完璧なチャレンジ&カバーの関係を築いた。 前半28分に生まれた永戸勝也の先制点は、ジエゴの効果的なロングスローが起点となった。ジエゴが斜め前方に投げ入れる構えを見せたことで清水の守備陣が左サイドに寄り、そこに永戸、郷家、小松が連動して相手を釘付けにした。こぼれ球に反応した永戸は、あえてボールを保持して時間を作らず広瀬陸斗へダイレクトにパスを出した。これにより清水の密集を解かせずに逆サイドの広大なスペースを活用することに成功。広瀬があえて飯野七聖を外のスペースに走らせるパスを出し、飯野のクロスに対してペナルティエリア内に5人が入り込むという分厚い攻撃を展開した。最後は井手口のクロスに永戸が飛び込み、見事なヘディングシュートで先制点を突き刺した。

4.空間認識の極致と「一番星」飯野七聖の躍動が生んだ追加点

後半61分の追加点のシーンも、吉田前監督の知らない神戸の新たな姿が生み出した得点であった。カエターノのクリアから始まり、大迫勇也、井手口、ジェアン・パトリッキらが細かくパスを繋ぎ、右サイドへと展開した。ここで特筆すべきは、大迫勇也の卓越した空間認識能力と視野の広さである。右サイドでボールを持った大迫は、味方の飯野と郷家の動きを止めないように自陣方向へわずかに動き、彼らが交差する背後を突いて中央の永戸へのパスコースを見事に創出した。さらに逆サイドではパトリッキが自らのスピードを警戒する相手守備を引き連れる動きを見せ、飯野がオフサイドにならずフリーで抜け出せる状況を完璧に整えた。 この流れからパスを受けた飯野が、ドリブルでペナルティエリア内に侵入してクロスを上げ、これが相手のハンドを誘発してPKを獲得した。このPKを扇原貴宏が、かつての遠藤保仁を彷彿とさせるように相手GKの動きを最後まで見極め、冷静に逆を突いて2-0とした。
この試合のMVPとも言える「一番星」に輝いたのは、百年構想リーグ初先発ながら2得点に絡んだ飯野七聖である。試合を通じて自身の最大の武器であるスピードを発揮し続け、立ち位置が整理されたチームの中で右サイドバックとして見事な働きを見せた。キャンプでの出遅れという苦境を乗り越え、かつて神戸でプレーした三浦知良の「自分が思ったように使ってもらえないのも自分のせい」という言葉に通底する強いメンタリティで、自らにベクトルを向け続けた結果がこの大舞台での躍動に繋がった。

5.今後の展望:過密日程を乗り越える総力戦へ

完勝と呼ぶにふさわしい見事な勝利であったが、試合中には小松と広瀬が負傷交代するという懸念材料も発生した。ACLEファイナルズを控え、過密日程が続く中でのコンディション調整は、リーグからの支援策を待つまでもなくクラブにとって喫緊の課題となる。 次節は中3日で、昨季見事なJ1残留を果たし、強度やスピードに慣れて昨年以上に手強い相手となっている岡山とのアウェイゲームが控えている。チーム力が着実に向上している今、飯野のような「新ヒーロー」のさらなる台頭が不可欠である。19世紀の哲学者ニーチェが「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」と記したように、清水のスタッフが神戸の選手を把握していたのと同時に、神戸の選手たちもまた相手の意図を完璧に把握し、それを凌駕する戦術眼を身につけつつある。進化を止めないヴィッセル神戸が、この勢いを維持したまま難局を乗り越え、数々のタイトル獲得に向けて邁進していくことを強く期待したい。

※この記事は、DAZN観戦と・ヴィッセル神戸「覆面記者の目」の解説をもとに作成しています。